衛星破壊

衛星落下でヒドラジンが地上に降ってくるというのが本当なら破壊は正当な対策。弾道ミサイル迎撃のデモンストレーションをしたいための嘘だとしたら、ヒドラジンが降ってくることは無いからやっぱり安全なんじゃないかな。
公式発表では、SM-3の衝突でタンクを破壊し、燃料自身が燃えた(実質的には爆発した)という。SM-3に爆薬はないため爆発光は衛星の燃料によるもの、ということらしい。だからヒドラジンはほとんど残ってない。

毒入りギョウザも怖いけれど、毒入り衛星の方がもっと怖い

http://sensouhantai.blog25.fc2.com/blog-entry-511.html

ヒドラジンが気になるならもっと心配すべき所がある。

プロトン・ロケットの推進剤(1段目から3段目)として、酸化剤に四酸化二窒素(NTO)、燃料に非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)が用いられている。この非対称ジメチルヒドラジンは腐食性や発ガン性を持つ有害物質で、今回の打ち上げでは、2段目以降の燃料は全て使われず、そのまま墜落した。

http://www.sorae.jp/030805/2017.html

この打ち上げには、日本も絡んでたので国内でも報道された。
残ってた燃料は2段目より上のものだから、残ってるヒドラジンは全部で100トン程度。ロケットは爆散したわけではないので、これが丸ごと地上に落下してるはず。
メインエンジンにヒドラジンを使ってるのは、プロトンのほかに、ICBM転用のドニエプルとかロコット、インドのPSLVとGSLV、あとは有人にも使う中国の長征あたり。ロシアのものは基本的にカザフスタンのバイコヌール、その東や北の地域に使い終わった下段が落ちる。中国では、落下したロケットの残骸が放置されているので市民が拾っていく*1のだそうだ。エンジンが拾えてしまうなんて豪快な世界だ。
他にも、スペースシャトル墜落の時、破片に燃料の残りが付いてるかもしれないから見つけても触れないようにとも広報されてもいました。シャトルにはヒドラジンを積んでありますから。


人工衛星に積んである燃料は基本的に、全てヒドラジン。燃料と酸化剤を混ぜるだけで燃えるので、点火の必要がないので確実だから。これよりいい燃料があるなら、そっちを使ってる。ないからヒドラジンを使う。ほとんどの場合は、燃料を使い果たして姿勢制御が出来なくなった時点で廃棄される。
ここ10年ほどは、イオンエンジン(電気推進)を搭載するようになったものの、たいていは静止衛星で、少なからず大気の影響を受けるような低軌道では推力が小さくてなかなか使えない。JAXAは高度200km程度でも実用可能なものを開発すると言ってはいるが。


ああそうそう、H2A打ち上げ延期の理由もヒドラジンです。2段目の姿勢制御用スラスタの燃料タンクから漏れた。

2月12日は,Y−2作業として,火工品結線作業は良好に完了したが,2段
姿勢制御用ガスジェットスラスタの推進薬充填作業において、推進薬タンク
内部での推進薬(ヒドラジン)漏洩が判明し、処置に時間を要するため、打上
げを延期することとした。(ヒドラジンは毒性が高いため、充填作業は工場で
は実施せず、射場で初めて実施する。)

http://www.jaxa.jp/press/2008/02/20080213_sac_f14.pdf

ジュール・ベルヌには4種類の推進剤が搭載される予定で、最初は非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)と四酸化二窒素(N2O4)が注入される。これは国際宇宙ステーションISS)へ輸送するためのもので、いずれもロシア側で生産しているため、作業はATVプロジェクトの専門家とロシアの技術者が連携して行われる。
今後、N2O4やジュール・ベルヌの燃料であるモノメチルヒドラジン(MMH)などの注入を含め、この燃料充填作業は2月8日まで続けられる予定。ジュール・ベルヌの打ち上げは2月下旬に予定されている。

http://www.sorae.jp/030608/2193.html

もうすぐ打ち上げるISS補給船、ESAの開発したATV(http://www.esa.int/esaMI/ATV/)1号機ジュール・ベルヌヒドラジンの燃料注入風景。
安全のために重装備で作業。とはいえ、燃料そのものに触れることはまずない。もっとも、『無害』な液体水素(-252度以下)や液体酸素(-183度以下)であっても直接触れることはしないが。
ジュール・ベルヌの打ち上げは3月8日(現地時間)の予定。はじめてのESタイプ。いつものようにライブ放送もあるはず。忘れないように。


衛星が落下した例としては日本が打ち上げたEXPRESSがある。

 EXPRESSは打ち上げられたもののM-3S?第2段ロケットの姿勢異常により、軌道投入を達成することはできませんでした。ガーナ(アフリカ)の新聞が伝えた落下物の記事に基づいたイギリス人衛星情報収集家Mr. Geoferry Perryの推定により、ガーナで回収保管されていることが判り、96年1月現物が確認され、同3月DASA-RI(ブレーメン)に移送されました。

http://www.usef.or.jp/f3_project/express/f3_express_2.html

これはもともと再突入して回収することを目的にしてたから、地上に届くのも不思議なことではないが、それでも無制御で再突入して無事だった。


高度が低く、破壊以前から3月中には再突入するという落下コースに入ってたので、破片のほとんどは近いうちに落下して燃え尽きる。小さいものほど空気の影響を受けて減速し、早く落ちるはず。破壊の衝撃で加速され、長期にわたって飛びつづけるデブリがどのくらい出るかが分からない。
デブリの監視をしてる団体はいくつかあるが、詳細を公表してるのはアメリカぐらい。困ったことに、アメリカが見せたくない物は公開されないし、日本のIGSも非公開にされている。日本のスペースガードは何をしてるんだ。*2
http://celestrak.com/NORAD/elements/
「FENGYUN 1C Debris」が中国の衛星破壊で出来たデブリ。全部ではなく、観測できた10cm以上のものだけ。
「Last 30 Days' Launches」にきずなが登場してる。きずなとは違う軌道でH2Aの2段目(H-2A R/B)もまだ飛行中。再突入させるための燃料はないので放置。



ぐるぐるしてたら変なの見つけた。

確か先日スペースシャトルを打ち上げていましたが、滞在期間を延長して、
その衛星の回収作業を行わせる訳にはいかなかったのでしょうか。

http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1939jpjp/54797265.html

シャトルで回収するには、対象の軌道にあわせて改めて打ち上げなければいけません。シャトルには軌道を変えられるような燃料は積んでません、姿勢制御と逆噴射用のものしかありません。宇宙空間って思っているより不便なんです。

*1:フジテレビ NONFIX「日中宇宙バトル“神舟”に隠された戦略」で見たhttp://www.fujitv.co.jp/nonfix/library/2006/513.html

*2:静止軌道上の巨大衛星の存在を公表したことがある http://www.spaceguard.or.jp/asute/a38/html/con38-R04s01.htm