ロリコン

ロリコン』でぐぐってまわって、ロリコンの意味が間違って広まってるという意見を見つけた。『少女が大人と関わろうとすること』というものだそうだ。これはたぶん、他の××コンプレックスと混同してるんじゃないかと思われる。そんなこんなで関連語を調べてみる。


コンプレックスを劣等感と解釈する向きもあるが、劣等感はコンプレックスの一つであり、実際には方向性の違う因子が複数からみあうことによって表面に出てくる意識や感情、行動を指す。劣等感はインフェリオリティー・コンプレックス(inferiority complex)であり、これに対する優越感はシュペリオリティー・コンプレックス(superiority complex)である。
コンプレックスのうち、性的な欲求に関すると思われるものを拾ってみた。


1. 固有名詞系・××が抱く感情
これらはフロイトユングによる心理分析に始まり、過去の文学作品の人物をその代表例としてあげ、名称にしている。

エディプス・コンプレックス
ギリシャ悲劇。父親に捨てられた息子エディプス(Oedipus)がそうと知らず父ライオス(Laius)を殺し母イオカステ(Iokaste)と結婚した。男性が同性の父親を憎み母親を恋慕する感情。
エレクトラ・コンプレックス
ギリシャ悲劇。父アガメムノン(Agamemnon)の出征中に不義を働き、その相手アイギストス(Aigisthos)との関係を続けるためにアガメムノンを殺害した母クリュタイムネストラ(Klytaimnestra)を、弟オレステス(Orestes)と共謀のうえ殺したのがエレクトラ(Electra)である。女性が同性の母親を憎み父親を恋慕する感情。
ディアナ・コンプレックス
ローマ神話。ディアナ(Diana)は本来、樹木と多産の神だが、ギリシャ神話における月の女神アルテミス(太陽神アポロンの双子の妹)と同一視され、その月の輝きから純粋さや潔癖さの象徴として扱われる。女性らしさや自らの女性性を否定し、男性に負けたくないとする感情。女性の中の男性性を指すこともある。
ダフネ・コンプレックス
ギリシャ神話。アポロンの求婚を断るために、月桂樹に身を変えたのがダフネ(Daphne)である。女性、特に処女の持つ男性への恐怖心、男性恐怖症。
シンデレラ・コンプレックス
シンデレラ(Cinderella)はペローまたはグリム童話などがあるが、もともとは民話。自立できず、男性に依存したいという女性の願望。今の状況から救われたいという欲求、白馬の王子様タイプの夢。


2.固有名詞系・××に抱く感情
和製語で、比較的近年になって定義された語である。成立は70年代から80年代あたりかと思われる。

ロリコン(ロリータ・コンプレックス)
1955年に発表されたナバコフの小説ロリータ(Lolita)。中年男性ハンバードが12歳のロリータに恋をし、ロリータからも誘惑される中、母シャルロットと結婚する。中年以降の男性によるローティーンの女性への愛情。少女愛
アリス・コンプレックス
1865年に発表されたルイス・キャロル(ドジソン)の小説、不思議の国のアリス(Alice)と鏡の国のアリスロリコン同様に少女愛とされる。人物単独ではなくその記号・装飾までを含め、服飾や人形趣味を含むことがある。
ハイジ・コンプレックス
1974年に放送されたテレビアニメ、アルプスの少女ハイジ(Heidi)。少女愛のうち、対象が10代に満たないものを指す。ロリータコンプレックスやアリスコンプレックスと並べて対象の年齢で区別するための分類手段。
ショタコン(正太郎・コンプレックス)
横山光輝原作、鉄人28号金田正太郎少年愛を指すロリコンの対語。


3.一般名詞系

オナリ・コンプレックス
琉球語でオナリとは姉妹の意。エケリ(兄弟)よりオナリ(姉妹)が霊的に高い位置にいるため、エケリをオナリが護るというオナリ神信仰がある。異性の兄弟姉妹に対する性愛を抑圧する心。
ファザコン(ファザー・コンプレックス)/マザコン(マザー・コンプレックス)
異性の親に対する愛情。
ブラコン(ブラザー・コンプレックス)/シスコン(シスター・コンプレックス)
異性の兄弟に対する愛情。


アリスコンプレックスやハイジコンプレックスは年齢でカテゴライズするための同人系オタ用語。おれはロリコンじゃない、と言うためにできたようだ。ショタコンもオタ用語である。表現という分野においては、ロリコンはその元となった小説から、大人の女性へと移りつつある少女の性的アピールをいれるのに比べ、アリスコンプレックスには、そういった大人風の性的要素を排除する傾向があり、ハイジコンプレックスになると、幼児性を伴い、性に対して無関心・無防備であることをアピールするものになる。こうした分化は80年代末にはあったと思われるが、今は区別されることはなく全てロリコンに内包される。
はてさて、ロリコン和製英語だとして、英語ではなんというのが正しいかと言うと、ニンフォフィリア(nymphophilia)やペドフィリア(pedophilia)であるらしい。ニンフォフィリアは未成熟な女性(少女)への愛情であり、ペドフィリアは子供に対する性的衝動である。後者は病気として認識されている。学問的にはこっちを使う方が正しいと思われる。女性の少年に対するものは不明。ティーンエイジャー全般を対象にするephebophiliaとか幼児を対象にするnepiophiliaというのも見つけた。
調べても出てこないのだが、膣に歯のある女性(ネイティブ・アメリカン伝承)に象徴されるような、女性を怖がる男性心理、ダフネ〜に対するものはなんだろう。シンデレラはともかくとして、ディアナ〜に対する語も見つからないし。