秋葉原

http://d.hatena.ne.jp/plummet/20060504/p1
とか見たのをきっかけにアキバ語り。
もちろん、アキバに求めているもの、すなわちアキバに足を運ぶようになった理由というのは違うのだから、人によって見えてるものも違ってきて当然。それがメディアによってこうだと定義づけられたり、用意されたものではないとなおさら共通認識としては弱いものであろう。メディアが定義付けていたものとすると、70〜80年代の家電・オーディオを核とする電気街と、90年代のWindowsブーム以降の自作パソコン(パソオタ)街、今世紀に入ってからのオタクの(萌えオタ)街あたりか。

家電・オーディオ機器の時代
70年代から80年代であるが、80年代後半は地方の量販店の安売りが広まったことから豊富な品揃えと値切りによる安売りという魅力は薄れ、家電の街とされてしまったアキバそのものの地位も低くなっていく。
パソコン・パソコンソフト/ゲームソフト
80年代、百花繚乱の時代から高性能化へと進んだパソコンだが、根本的な販売数が家電に及ぶものではなく、機種ごとに違う多量のソフトを確保しなくてはならないこともあって量販店での扱いは弱く、アキバでは家電・オーディオと並ぶ中心的存在に成長をはじめた。
パソコンパーツ
90年代中盤、Windows95の発売とパーツ単位で購入できるPC-ATの台頭で、専門知識を持った店員の確保できるアキバはパソコンの街とメディアから取り上げられるようになり、家電からパソコンの街になったと報じられる。もっとも、この頃までのメディアの目にはハードウェアの街としか見えてない。
マニアック化
都心にあって抱える顧客が多いために店舗が専門でやっていけるという条件。競い合うために専門性を進めることから個々の店の取り扱いは豊富になる。量販店で扱いが弱くなる嗜好性の強い商品も扱われることから、それまで広く扱われていたオーディオ機器やパソコンとの関連性が高い商品が売れることになる。それがアニメ作品のLDであり、パソコンゲームであった。90年代いっぱいをかけて、家電という一般向けの街からマニアが選ぶ濃い街への回帰が進む。また、自作パソコンの街として注目されるその裏でソフトへの偏重は進み、ハードウェアの陰に隠れていたソフトウェアの街としての認知がアキバに集まる人の中で高くなってゆく。
オタク産業
パソコンソフト・ゲームの派生として、アマチュアの手によるパソコンゲーム、つまり同人ゲームがアキバで扱われ、そのつながりから同人誌も扱っているメッセサンオー等の店があり、これに触発されて同人ショップの出店が始まる。もともとアニメやパソコンゲームを求める層との重なりが高かった。最終的にとらのあな(1996)とK-BOOKS(1996)、海洋堂(1998)あたりがオタク街への舵取りを決定付けたことになる。また、商業品を扱う際には価格と品揃え以外での差別化に限界があることから、店独自の特典を競ってつけるようになったこともオタクの集客性を高くしている。

アニメイトがアキバの辺境に進出したのは1998年だったか(1997年12月20日とのこと)。他の入居者からこれでもかというほど嫌われながらも侵食して領土を広げ、さらに利便性の高い下層階へと移動していく姿にオタの恐ろしさを見た。最終的にでじこビル(1999)・とらビル・アニメイトビル(2001)の三つがアキバの地にそびえ立つことでアキバオタシティが完成したと言える。
アキバにオタショップが増殖する以前はむしろ渋谷がオタク街であった。それ以外が目立つ街だからメディアには気づかれていないが、92年からまんがの森アニメイトまんだらけと相次いで出店したことを契機として、109と文化会館にまんが専門店ができたり、同人ショップのLLパレスも出店。もちろんそれ以前からあった海洋堂やB-CLUB、イエローサブマリンといった多数の小規模な専門店に加え、東急ハンズやロフトといった濃い大型店がオタクを呼び込んでいた隠れたオタクの街であった。それがアキバのオタク街化により急速にしぼみ、今はライト層・若年層を中心層とするアニメイトの天下である。
たまに言われていたような、オタクにとって居心地の悪い街などではないが、濃い嗜好を持っているものにとって居心地のいい街でもない。あえていうなら広く浅く、何でもあるがなんにもない、それが渋谷。とりあえずは何とかなり、オタクライフを送るのにも不足はないが、ちょっと深くへ入り、濃い目を望んでしまうと食い足りない。アキバやブロードウェイがオタ腹八分の街なら、渋谷は五分程度。
シブヤからオタクが去ってオタク不毛の地となったのは、アキバが楽園として成長を始めたことの副産物である。シブヤのようにアキバからオタクが去ってゆく可能性があるかというと、オタクの受け皿がない限りはどうにもならない。90年代に若者の街として急上昇を見せた池袋が今はオタク、腐女子の集う乙女ロードへという変化を見せているらしいが、それが更に男オタクも飲み込めるかというと分からない。渋谷に戻ってこれる可能性がないわけではないし、他の街で展開できるかもしれない。それが新宿だったらオタクの街とは言われないのだろうけど。
そもそも、新開発地区を作った人たちはアキバに集ったオタクを捨ててやっていけるとは思ってないだろうから、5年程度の中期的なスパンで見る限り、個人的にはやや楽観的である。彼らは健全部分しか見たくないであろうという点でマイナス要素もあるのだけど、成人向けという不健全な部分を徹底的に排除すれば健全な部分も縮小するという理解があるなら、オタク側がほどほどの領域でやっている限りは安全である。彼らが嫌いでも睨むだけなら大丈夫。拳骨で殴ろうとしたら釘バットで殴られるだろうけど。
怖いのは、そういったほどほどさを理解しないで参入してくる、「オタクだからこういうことをやってもいいんだ」的な者の存在である。その手に入れた物は公衆にさらけ出すようなものではない、自分の部屋の仲だけで楽しむものであるという認識をもてずに、メディアやネットで不特定にオタク芸としてさらしてしまうことが後でオタクの首をしめてくるのである。下手をすると、原因を作った者はオタクではない別の世界に行って、オタクを苦しめるようになるかもしれない。